模様
前濱 穂乃香
美術学科 油絵専攻
H230×W300×D1.5cm
油彩、パステル、色鉛筆
本作品「模様」は、作者が学部在学中の四年間にわたり取り組んできた人物画、風景画、静物画、自画像といった複数の制作経験を基盤とし、それらを単なる技法的統括に留めることなく、ひとつの空間認識の問題として統合した卒業制作です。
作者は自室という私的な空間をモチーフとし、画面中央に自画像を配置しながら、左右に視線を移動した際に見えてくる室内の風景と、妹および父親という身近な人物像を描いています。ここでは、自己と他者、内面と外部といった関係性が、物語として説明されるのではなく、視覚的経験として静かに配置されている点が特徴的です。
本作において注目されるのは、絵画の枠組みをあらかじめ前提とするのではなく、視線や身体の動きに即した知覚の積み重ねから画面構成を立ち上げている点です。視界の中心に現れる像を一つずつ分割して描き、それらが結果として一つの画面を形づくっていく過程は、絵画を固定された視点の再現としてではなく、時間を含んだ知覚の痕跡として捉え直そうとする姿勢を示しています。
複数のパネルによる構成も、形式的な実験に終始するものではなく、限られた画面の中で連続する視界を成立させるための方法として機能しています。作品は単一視点からは把握しきれない空間的な広がりを持ち、鑑賞者に対して視線の移動を促すことで、絵画鑑賞そのものの在り方を問いかけています。
以上の点から、本作品は確かな描写力に支えられつつ、絵画の成立条件や知覚の問題に踏み込んだ卒業制作であり、学部四年間の成果を示す、卒業制作優秀賞に相応しい作品です。