• Faculty of Arts / Art Award

2024_三坂日奈子

明け方の箱庭
三坂 日奈子
造形芸術専攻油絵C研究室
F150号   H1818×W2273 mm
油絵具 キャンバス

 三坂日奈子は「夢」を主なテーマとして、布団やベッドなどの寝具をモチーフとした作品を制作してきた。これらのテーマやモチーフと向き合うきっかけとなったのは、2020年に世界を席巻した新型コロナウィルスによる日常生活の劇的な変化である。マスクの着用、外出制限や対人行動が制限され、自室で過ごす時間が増え睡眠時間が不規則になり、経験した事のない不安や閉塞感から、夢の中に閉じこもっていたいという自身の姿を布団とともに描くようになった。
 作者は「夢」に関して、他者との関わりを現実ではない「夢」という空間でシミュレーションを行なっているのではないか?という「リハーサル説」にも興味を持ち、修士論文ではフランシス・ゴヤ作「理性の眠りは怪物を生む」やヘンリー・フューズリ作「夢魔」などの分析をしている。また作者が幼い頃に行なっていたという「人形遊び」を小さな身体を借りて行う「現実世界で行うシミュレーション」と捉え、既に無くしてしまったこれらの人形や動物・オブジェなどを、感触や記憶を頼りに粘土で制作し絵画に登場させるようになる。
 修了制作「明け方の箱庭」ではベッドやマット、布団などを、自身が生まれ育った広島の風景に見立て、粘土で制作した様々な動物やオブジェを配置し描いている。ここでは今まで布団とともに描いていた身体は不在となり、その時を待っていたかのように動物やオブジェたちがベッドの上に集まり、静かなダイアローグが始まろうとしている光景を、朝の光とともに描いた非常に魅力的な秀作である。