• Faculty of Arts / Art Award

2024_神原 夏琳_01

逍遥
神原 夏琳
美術学科日本画専攻
H2273×W1818 mm
土佐麻紙、岩絵具、水干絵具、胡粉、膠、墨

 本作は、神原自身が幼い頃からよく歩いていたという実家の裏山の道を主題に描かれた作品である。
 夏の光が木々の隙間から差し込む潤いを帯びた情景は、どこか懐かしい既視感と共に鑑賞者を道の向こう側へと誘う。特別な主役を持たない静かな風景作品だが、それが却って鑑賞者個々の過去の記憶や経験と緩やかに繋がる余白を生み出している。自然なスケールを感じさせる構図や、手前から奥に繋がる的確な空間表現など、基礎的な造形能力の高さが、こうした鑑賞者と画面との対話を違和感なく成立させている。
また、日本画材料と硬い色鉛筆の併用で仕上げた路面の木漏れ日とガードレールの表情には、光の微細な揺らぎとともにエッジの効いた強さがあり、画面の大部分を占める樹木の柔らかな描写に対して効果的なコントラストを与えている。
 岩絵具や水干絵具の粒度に応じた発色の特性をうまく活かしながら、丹念に色を塗り重ねることで表出させた風景全体の重厚な気配の中に、作者の主題に対する深い眼差しと、これまで真摯に積み上げてきた制作研究の時間を見ることができる。