たしかにそこにある
園田 彩香
美術学科彫刻専攻
H30×Dia.296cm
毛糸
園田彩香さんの卒業制作《たしかにそこにある》は、天文学者ロバート・ハートの観測データを基に、我々の住む「天の川銀河」を編み物で再現した彫刻作品です。一見、展示室に青白い銀河が閉じ込められているようですが、その縮尺は「局所銀河群」を作者の生活圏である大学敷地面積(約9万㎡)から算出した比率で再現されています。本来なら認識不可能な「光年単位の距離」を、歩行可能な「身体的尺度」へと繋ぎ合わせることで、単調な日常をマクロコズミックな視点から捉え直しています。
作者は、ままごとで親を演じる子供のように、編み物を通じて創造主を演じています。6200mに及ぶ一本の毛糸から、小さな編み目の単純な反復の果てにマクロの宇宙構造を紡ぐ手法は、現代宇宙物理学の「ストリング・フィールド理論」や、量子的な「もつれ」が宇宙を編み上げるという仮説を遊び心と共に示唆しています。また、ヨーゼフ・ボイスが熱を保持するフェルトを彫刻の素材に用いたように、作者は「長編みの増し目」によって表面積を増大させ、分厚い空気層(断熱層)を形成することで、ニットを熱力学的なデバイスへと印象づけています。これにより、この銀河は熱的死の状態ではなく、動的平衡な物体として提示されています。作者にとって編み物は単なる手芸ではなく、数学的理性と身体的直感が調和した「世界の編み直し」であり、その指先を通じて宇宙という広大な領域を紐解き、物語や知識を形にすることで銀河を編んでいると言えます。